招待状 トマ・ピケティー様

 わたしは、ういすちわおと申します。普段ケアワーカーの仕事をしながらフリーター全般労働組合の組合員をしています。そして「自由と生存のメーデー実行委員会」のメンバーでもあります。わたしたち実行委員会は、2015年5月2日に東京でデモ&集会を予定しています。3月8日の実行委員会会議において、わたしは、貴方を当イベントにご招待する担当者に選任されるという栄誉を頂き、大変光栄に思っています。わたしたちは集会のテーマを「ピケティっておいしいの?」と題しました。そして貴方の著作をどう論じるのかを中心に議論します。まずは、わたしの手紙を読んでいただき、その後、デモ&集会への参加を、ご検討して頂きたいと思います。

 日本の国会で貴方の著作「LECAPITAL」が取り上げられました。能天気な野党議員の格差問題についての質問に対し、総理大臣安倍晋三は、「 頑張る人が報われる社会をつくっていかなければならない」と「したり顔」で答えました。ちなみに「頑張る人」の「頑張り」を数値化することは難しいが、安倍の家系を示す資料は、たくさん存在します。安倍の父親は外相、祖父、大叔父は首相であり、代々国会議員や県会議員を輩出した名門です。安倍の資産は1億528億円で内訳は不動産7903万円と金融資産2625万円であり、それ以外に家族分を含めて総資産額には算入されない株式を保有しています。
 貴方の著作「LE CAPITAL」は、資本という概念を、富、財産等にも置き換え可能な広い意味でとらえます。つまり、資本の分配(=富の分配)の問題は、社会全体のメカニズムから論じられなければならないということです。
 貴方は南アフリカ、マリカナの鉱山労働者がストライキ中、警察の発砲によって34名が死亡したという事実を伝えています。この事件について考えるとき、わたしはウォーラーステインの「史的システムとしての資本主義」(Historical Capitalism)を想起します。彼は「半労働者」という概念を用い、性差別や人種差別の意識は不平等を正当化する万能のイデオロギーとして作用しており、それはまた、諸集団を社会化し、『〔世界〕経済』のなかに位置づける役割も果たしてきた、と述べています。
 しかし、わたしは資本を稼動させるメカニズム全体は、さまざまな闘争の結果として構築されたと考えています。事実日本では戦後の闘争の結果として、日本最大の正規労働者の労働組合「連合」が組織されています。この貴方がいうトップから10%あるいは1%の高所得者は、現在彼等とけっして敵対関係にあるわけではありません。他方、現在日本ではサービス業従事者と非正規労働者の比率が年々増大し−女性の割合が大きい−有期・間接雇用を軸とする非正規雇用率は全労働者の4割を超えようとしています。彼等の不安定な雇用と所得は、まさしく史的世界メカニズムと連動しているのです。
 わたしが、貴方にご紹介したいのは、「キャバクラ」という日本の風俗営業の世界において構築されている「メカニズム」です。わたしは、このメカニズムを「キャバクラ・メカニズム」と呼んでいます。そして、「キャバクラ・メカニズム」の担い手たちは、優れた発明家であります。彼等は、あらゆるサービス資本の先がけとして搾取のメカニズムを、先行的に発明しています。「キャバクラ・メカニズム」の動力源は金主(注) と呼ばれる投資家であり、通常彼等は表に出てきません。「キャバクラ・メカニズム」は、女性従業員に対する賃金未払いや違法なペナルティー等を、彼女らに強制するよう巧妙につくられています。経営者側の従業員(多くは男性)は、このメカニズムを「夜のルール」と呼んでいます。この業界は女性スタッフが男性のお客様に接客をする、という特殊性に基づき、差別が「正当化」されているのです。差別の「正当化」は、組織だった闘争の不在を意味し、富の分配の不平等を放置するという現状を生み出しています。こうした困難な現状の中、現在フリーター全般労働組合キャバクラユニオンが、結成され活動しています(わたしは、風俗業界における歴史的経済学的資本分配の研究が必要だと考えています)。
(注)金主とは江戸時代の大名に金を貸す大金持ちの町人のことであるが、日本の裏社会でこの言葉が用いられている。

 わたしは資本のメカニズムは、あらかじめ描かれた設計図の上に構築されたのではないと考えます。相互に連動したさまざまな現場の小メカニズムにおける数多の闘争の結果、力関係の総和として巨大メカニズムは構築されているのではないでしょうか。わたしは市民がコミュニティを通じて、自発的に行政組織を再稼動させたパリ・コミューンは、その一例であると考えます。故にわたしは、労働、学校、地域等の様々な領域での政治経済的闘争、文化的闘争が不可欠であると考えています。
 最後に希望と言えるかもしれない、思想と実践を紹介します。日本の高齢障害者、障害者介護は、当然資本のメカニズムに包摂されています。日本の介護メカニズムは、「家族介護」中心に構築されており、主に女性の無報酬の労働によって担われてきました。この領域において、フェミニズム思想と障害者運動とを接合する営為は、多大なインパクトを与えており、協同関係の構築と労働を相対化する重要なヒントを提供しています(日本の社会学上野千鶴子は重要な仕事をしている)。たとえば1970年代障害者自立生活運動は、1人の障害者を1人ないし必要によっては1人以上のケアワーカーによって支えるパーソナルアシスタント制度を発明しました(常時介護を必要とする高齢者の入所施設では、1フロアー高齢者20〜25人に対しケアワーカー3〜4人、夜勤は1人で対応する)。わたしは、この制度構築のために、障害者やその支援者による国や行政にプレッシャーをかける重要な闘争があったことを書き添えます。
 わたしは既成労働運動の停滞は、極めて限定的な生き方である労働に偏重した価値を置き、全面的な生の可能性という根底に立ち返ることによって、よきフェミニズム運動やよき障害者運動の実践に学ばなかったことだと考えています。
わたしが述べた論点を整理します。21世紀は資本に包摂されない関係性、新たなメカニズムを形成する時代になり得ないのか?ということです。

 トマ・ピケティー様、いかがでしょうか?もし、お心が動いたら、ぜひ、お返事、メッセージを寄せてください。

 「自由と生存のメーデー2015 --反富裕 Life is a Scandal—集会『ピケティっておいしいの?(仮)』への貴方の参加を心からお待ちしています。デモは13時から、集会は17時から開始です。尚、お返事は以下の連絡先にお願い致します。

(連絡先)
住所:〒151-0053 渋谷区代々木4-29-4西新宿ミノシマビル2F
フリーター全般労働組合気付「自由と生存のメーデー実行委員会」ういすちわお宛
(わたしの名前は仏語でOuiBonjourです)
Email: union@freeter-union.org
ファックス:03−3373−0184
電話:03−3373−0180

(デモ・集会の予定)
MAYDAY for Freedom and Lives 2015
自由と生存のメーデー2015 -- 反富裕 Life is a Scandal
2015年5月2日(土)
 〇デモ 13時 東京・原宿
 〇集会 18時 千駄ヶ谷区民会館 集会室1 「ピケティっておいしいの?(仮)」

PS. 浅草一文本店で「ねぎま鍋」を食べましょう!